Sunday, November 4, 2018

舞台の共通言語

誰か教えて!長いので興味があったらどうぞ。

あちこちで舞台に関わるプロジェクトに携わっていてふと思った、もう一つの言語についての覚え書き。とある機会にいろいろ調べていたら面白くなってきたので、詳しい人にぜひいろいろ教えて欲しいと思ったので記しておきます。

舞台制作の世界では、特殊な言語がたくさんある。例えば舞台の左右の表し方。日本の舞台では客席からみて右側を「上手(かみて)」、左側を「下手(しもて)」と呼ぶ。そして奥行きについては、ステージの前のほうを「面(つら)」奥は「奥」という。
http://www.moon-light.ne.jp/termi-nology/

これは上座・下座という日本の文化から来ていて、「身分の高い役を舞台に向かって右に。逆に身分の低い役は左に。」というのが芝居の約束事となり、上手・下手という言葉になったと言われている。

ーー現在でも舞台上に家を建てる場合は、下手に玄関を置くことが多くなっています。また、落語で身分の違いがある人同士の会話の場合、噺家は身分の低い人を演じてる時に上手を見て話し、身分の高い人を演じている時には下手を見て話をするようです。ーー
http://www.moon-light.ne.jp/termi-nology/meaning/kamite-shimote.htm
「8時だョ!全員集合」でも玄関は下手にある。

なるほど。

ステージ上に居る人に指示を出す場合、舞台中央にあるものを客席側から見て右に動かしたい時、そのまま伝えると舞台に立っているひとは向かい合ってるわけだから反対方向に動いてしまう。でも、「上手に」と言えばどっちから見ててもおなじ方向に動かせる。

これは音楽でも演劇でもダンスでもどの現場でも同じ。だから、いろんなジャンルの人が入り交じる現場でも問題は起きない。これらの言葉はもともと能や歌舞伎などの舞台から来てるみたいで、慣れないとわかりづらいんだけど、慣れてしまうとどの舞台でも通じる共通言語があるっていうのは非常に便利。ヘビメタだろうとクラシックだろうと、アングラでも能や歌舞伎でも上手は上手。

それでふと疑問に思った。海外ではどうしてるのか。

というのも、以前とある国でステージの制作に関わった時に、日本人の演出家に通訳が付いていたんだけど、「上手、下手」っていう言葉がわからず「上ってどっちですか?」みたいなことになって混乱したことがあったことを思い出したからだ。ものすごく単純なことなんだけど、これをいちいち緊迫した現場で、しかも異なる母語の人同士でやるとなるとすごくたいへん。

アメリカやオーストラリアでツアーをした時は、日本の舞台には必ず常備されている箱馬という道具(サイズもほぼ決まっている)「的なもの」で台を作って欲しくてリハーサルの時にステージ上でリクエストすると、毎回違う箱が来て困った。ただ、海外では箱馬的なものはアップルボックスといって規格サイズのものがあるので、これは僕のリクエストの仕方が悪かった気がする(その時は呼び方を知らなかった)。

それで、海外で舞台に携わる友人に舞台の共通言語について尋ねたり調べたりしていたらいろいろと興味深いことが見えてきた。

まず、英語だと日本で言う舞台「上手」はstage left。「下手」はstage right。つまり舞台側(演者側)から見て右左で表す。ちなみに「面」はDownstage、「奥」はUpstageという。一般的な右、左、に「ステージ」を付けるから間違いはないんだろうけど、客席から見ると、「ステージレフト」は見た目の右側。ちょっと分かりづらい気がするけど、これも慣れなんでしょう。日本のように役の上で上手が偉いとかそういうことはないんだろうか。
http://www.iar.unicamp.br/lab/luz/ld/C%EAnica/Gloss%E1rios/a_glossary_of_teatre_terms.pdf

それではフランスではなんと言うか。フランス在住のピアニスト中島ノブユキ先輩に聞いてみました。すると、フランスでは「上手」を「côté cour (コテ・クール)王宮側」「下手」を「côté jardin(コテ・ジャルダン)庭側」と呼ぶんだそうな。右左が王宮と庭!!

昔 ルーブル宮殿とチュイルリー公園の間にある「劇場コメディーフランセーズ」 (古くは王立の、現在は国立の由緒ある1600年代からある「劇団コメディーフランセーズ」の本拠地)の立地に由来しているとのこと。ステージに立つと日本で言う上手側にルーブル宮殿があって、下手側にチュイルリー公園があるのだそう。さすがおフランス(笑)やっぱり舞台の歴史のあるところはそれを感じさせる言葉がある。ここでは上手に位の高い人が来る感じがする(実際にそうかどうかはわからない)。

へぇーーー、ということで、今度は台湾の友人に聞いてみたところ、台湾では「上手」のことは「面對舞台右手邊」、「下手」は「面對舞台左手邊」というらしい。中国語を解しないので微妙なニュアンスがわからないけど、日本語の上手、下手も通じるそうなので日本と同じく客席からみて右左を決めてるのかな。でも表し方は英語に近い?中華圏にも上座はあるんだろうか。ありそうだけど。

今の所はこれくらいのことしかわからないんだけど、こういう舞台制作、アートマネージメントの比較文化論みたいなのはすごく興味がある。

音楽の世界で楽器同士がチューニングするための標準ピッチをA=440Hzと決めたのは、産業革命後に蒸気機関が発明されて演奏者が長距離を演奏旅行するようになってから。標準ピッチ制定の10年ほど前にグリニッジ標準時が国際的に決められたのも同じように人が高速で長距離移動することになったからという理由。

現在、これだけ世界中のステージ・コンテンツが交流している割に、舞台制作上の共通言語があまり議論にならないのはどうしてなんだろう。英語圏の表し方がグローバル・スタンダードになってるからでしょうか。ここの国ではこう呼んでるとか、詳しい人とかいたらぜひ教えて欲しいです。


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